岡山地方裁判所 昭和46年(わ)677号 判決 1971年12月03日
主文
本件は管轄違。
理由
一、本件公訴事実は別紙起訴状記載のとおりである。
二、ところで、右各事実は、被告会社の従業者らが被告会社の業務に関し、道路交通法一一九条一項三号の二、五七条一項に違反した行為をしたことにともない、同法一二三条によつて、業務主である被告会社に同法条違反の罪責を問うものであることは明らかである。
そこで右道路交通法一二三条の規定をみると、同条は業務主に対するいわゆる両罰規定であつて、業務主である法人又は人に対しては、同法条が根拠となつて、行為者を罰する各本条の罰金刑又は科料刑が科せられるものとされているのである。
かかる場合の事物管轄をいかに考えるべきかについては争いなしとせず、行為者を罰する本条において、行為者に対し懲役刑を科しうるものとされている限り、業務主に対しても地方裁判所にも管轄権があるとする見解も存する。しかし、道路交通法一二三条は、業務主である法人又は人に対し、行為者の違反行為に従属しつつも、これとは構成要件を異にする別個独立の犯罪を定めたものと解するのが相当であり、その法定刑は罰金刑又は科料刑(ただし本件においては道路交通法一一九条に科料刑の定めはない。)とされているのであるから業務主である法人又は人に対する事件の管轄は、特別の規定(例へば、人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律七条)がないかぎり、右の法定刑に準拠してこれを定めるべきであつて、行為者に科せられる各本条の刑によるべきではないと解される。(最判昭四三、一二、一七、刑集二二、一三、一四七六参照)
三、そうだとすれば、本件は罰金の刑にあたるものとして易簡裁判所の専属管轄に属し、地方裁判所の管轄には属しないものというべきである。
よつて、刑事訴訟法三二九条本文により主文のとおり判決する。(谷口貞)
<別紙>
起訴状
左記被告事件につき公訴を提起する。
昭和四六年一〇月七日
岡山地方検察庁
検察官検事○○○○
岡山地方裁判所殿
被告人
本店 岡山市(以下略)
商号 F建設興業株式会社
代表者住居 岡山市(以下略)
代表者氏名 F
公訴事実
被告人会社は総合建設業等を営むものであるが、
第一、同会社の従業者である甲において法定の除外事由がないのに同会社の業務に関し昭和四六年一月二〇日午後三時ごろ岡山市下中野五九番地先道路において自動車検査証に記載された最大積載量(7.500キログラム)をこえる11.340キログラムの山土を積載して大型貨物自動車(岡一せ七二七五号)を運転し
第二、同会社の従業者である乙において、法定の除外事由がないのに同会社の業務に関し、同月二九日午後零時一五分ごろ同市津高六四五番地先道路において、自動車検査証に記載された最大積載量(11.000キログラム)をこえる16.200キログラムの砕石を積載して大型貨物自動車(岡一せ八六八八号)を運転し
第三、同会社の従業者である丙において法定の除外事由がないのに同会社の業務に関し、同年二月一六日午前一〇時一五分頃岡山市吉宗地内吉宗駐在所付近道路において自動車検査証に記載された最大積載量(11.000キログラム)をこえる16.010キログラムの砕石を積載して大型貨物自動車(岡一せ八六八八号)を運転し
たものである。
罪名および罰条
道路交通法違反
同法第一二三条、第五七条第一項、第一一九条第一項第三号の二
同法施行令第二二条第二号